「グローバル社会における仏教と禅の智」
2023年10月25(水)東京駅前の貸会議室にて寺ネットサンガの坊コンが開催されました。
今回は堪能な英語で海外の方々にも積極的に坐禅のご指導をしている臨済宗建長寺派の藤尾聡允さんに「心の安らぎ: グローバル社会における仏教と禅の智慧」というテーマでお話をしていただきました。
法話『未来の仏教を展望する』~臨済宗建長寺派 独園寺 藤尾聡允さん
藤尾さん主催のオンライン坐禅会は今年で4年目を迎えました。
毎週土曜にご自身のお寺(独園寺)で開催していたリアル坐禅会は2020年、コロナ禍の影響で開催が難しくなりました。そこで、藤尾さんはすぐにオンライン坐禅会へとシフトさせました。インターネットで世界中の方々と容易に繋がると、藤尾さんの坐禅会はますますグローバルなものになっていきます。
そんな折、藤尾さんは体調を崩し、がん宣告を受けることになります。しかし過酷な状況にもかかわらず、手術後も休むこともなくオンライン坐禅会を開催しました。オンライン坐禅会参加者のなかには国籍を問わず、余命宣告をされている方や、心や体の病に苦しんでいる方がいたからです。彼らの存在が、4年間休むこともなく坐禅会を続けてきた藤尾さんの行動力の後押しとなりました。
藤尾さんのリアル坐禅会に参加されている方の中には、海外の大学院の教授や医療関係者が多くいらっしゃいました。コロナウイルスがまだ、未知のものとされていたとき、不安や苦悩を抱える世界中の人たちが、心の平穏に役立つ禅に興味を持ちだしました。コロナウイルスの脅威と未来への不安が増す中で求められたのは、坐禅がもたらすマインドフルネスの重要性だったのです。
未来の社会で人々が仏教に求めるもの
藤尾さんのオンライン坐禅会を知った彼らは、自分たちの大学院がつながっている世界中の提携大学院の方や、多くの不安を抱える人達へ坐禅の指導をしてほしいと、藤尾さんに依頼してきました。そんな彼らの希望を受けて、藤尾さん2020年4月から9月までの半年間、EMBA Consortiumという世界中の大学院連盟向けの坐禅会を深夜0時から1時半までという時間帯にも別途開催されました。
藤尾さんのお話によると、欧米ではキリスト教徒でも仏教を実践する方が増えているのだそうです。
「特定の神様と契約する概念がない仏教は、宗教(宗とする教え)ではあるが、Religion(神様と契約する宗教)ではない」と藤尾さんは言います。
「仏教は人間シッダールタ(お釈迦様)の教えであり、その中には神様の言葉や神様との契約は存在しないのです。日本では宗教としての仏教と、信仰としての神道が集合して英語のReligionに近い概念になるのです。“いま・ここ“に集中する仏教は、どんなreligionを持つ人でも受け入れます。ですから禅僧である牧師さんもいらっしゃいます。」
今年の4月、スウェーデンのルーテル派の司祭であり、禅僧でもあるグスタフ・エリクソンさんが来日しました。グスタフさんは、禅をベースにしたケアのあり方を研究実践している方です。
Engaged Buddhism(エンゲージドブッディズム)とは現代社会の様々な諸問題に積極的に向き合い社会参画する仏教活動のことで、禅僧の籍も持つグスタフさんは、自殺問題やターミナルケアなどに取り組むチャプレンでもあります。
同時期に鎌倉の建長寺で開催されていた医療人類学者で僧侶でもあるジョアン・ハリファクスさんの講演会に、グスタフさんを参加させることもでき、有意義で貴重な時を過ごせた話をしてくださいました。
また、フロリダ在住のメソジスト派の司祭であるミッシー・ハートさんとも交流を深めていらっしゃいます。ミッシーさんは数年前まで約10年間、横浜ユニオンチャーチの牧師だった頃に藤尾さんと知り合いました。彼女も仏教や坐禅に興味を持ってくださり、藤尾さんのお寺の坐禅会に参加されていたことがきっかけで、宗教を超えた交流がはじまったのだそうです。コロナ禍の際は、オンラインでお互い情報交換をし、励まし合いながら友情を深めました。彼女はリアルでの不況活動を復活した今でもオンラインでの布教活動も続けていらっしゃるそうです。
「私は英語をリンガ・フランカ※として使う場合、たとえば日本の八百万の神様をGODではなく、KAMIとするなど、海外に存在しない概念は無理に英語に置き換えずローマ字を使って表現した上で、その意味を説明しています」と藤尾さんはおっしゃいます。
仏教特有の言葉や概念をなるべく正確に伝える為には、ある程度の語彙力が必要です。
仏様と八百万の神様とGODの違いを説明する、哲学的な説明をするなど、藤尾さんが気を付けてリンガ・フランカとして英語を使うという話にはとても驚きました。
言葉のニュアンスの違いが誤解を生むことは往々にしてあることです。仏教の本質を学ぼうと坐禅に興味を持つ海外の方々に真摯に向かう姿勢に、頭が下がる想いでした。
※リンガ・フランカとは 共通の母語を持たない集団内において意思疎通に使われている言語のこと(ウィキペディア)
お坊さんと未来の仏教をテーマにディスカッション
藤尾さんは「やがてシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れ、VR(バーチャルリアリティ)、MR(ミックスリアリティ)、XR(クロスリアリティ)などのテクノロジーが更に進化します。テクノロジーの発展と共に、孤独感や人間関係の希薄化も進む可能性があります。
仏教が提唱する人間のつながりや心の平穏を求める人はますます増えるのではないでしょうか。
心のケアの必要性、メンタルヘルスの重要性は未来においても継続されていくでしょう。自己理解や自己成長の重要性が更に強調される可能性が示唆されています。
仏教の教えや禅の修行がそのようなニーズにこたえるツールとして今後はますます活用されていくことでしょう」とおっしゃっていました。
藤尾さんは坐禅会で知り合った海外の子供たちから、メタバースの使い方を教えてもらったのだそうです。
特に、欧米の子供たちは、遊ぶ場として気軽にメタバースを既に利用しているのだそう。
アカウントを開設してもらった藤尾さんは、その後ITに詳しい友人の協力を得てメタバースで坐禅会を開きました。ご自分のアバターを作り、世界中から参加してくる方々に坐禅指導をしています。
そのメタバース坐禅会には、寝たきりの方や闘病中の方、遠方という理由でリアルの坐禅会には参加できない方など、様々な国籍の方々が参加してくるそうです。
国境のない、距離のない世界がメタバースで実現しています。
「今後は更にAIも発展し、オンラインの世界とのつながりは更に身近で容易なものになっていくのでしょう。アバター・コミュニケーションによる自殺対策や自死遺族へのカウンセリングなど、メタバースの可能性は広がっていくと実感しています。
既にアバターによって、たとえば顔に大きな痣や火傷痕のあったり体に障害のある方も安心してご参加されています」とおっしゃっていました。
パソコンが各家庭に普及し、携帯電話がスマートフォンに代わっていった近年のテクノロジーの発展のように、AIやメタバースの世界も普通になっていく未来が来るかもしれませんね。
休憩をはさんで、グループディスカッションです。
藤尾さんのお話を踏まえて、各グループで意見交換をしました。
不安・恐怖に支配されがちな現代社会で、孤独と向き合いながら、いつか訪れる死を前に
自分は何が出来るのか?幸せでいるためにはどうような心もちでいればいいのか?
私たちの未来はどうなるのか?などの悩みに振り回されて生きる私達。
人は心が外を向いていると不安になるのだそうです。
禅では己事究明といって自分の心の中に目を向けていきます。時には情報を遮断して、自分の内側に向き合う時間を持つことで安心を得るのだと藤尾さんが話してくださいました。
そのために坐禅がとても有効だと。それはご自身のこれまで見てきた沢山の出会いが教えてくれたのだと言います。
頭の中を空にして、ただ坐る。
皆さんも今日から実践してみてはいかがでしょう。
「未来の仏教を展望する」寺ネット・サンガ
仏教 坐禅