「万両塚」の伝説 蛇姫さま 万両塚 ヘビヒメ

蛇姫さま

万両塚」という呼称は、建設費が一万両に及んだとの俗説から生じた芳心院墓所の俗称である。

この万両塚は「芳心院墓所(俗称万両塚)」として大田区史跡に指定されているが、その説明にもこの俗説が紹介されると共に、周囲に空堀を巡らすその姿も「堀溝は現在空堀になっているが、旧幕時代には常時水がたたえられていた。これは芳心院が、生前蛇嫌いであったため、没後も蛇を遠ざける目的であったと伝えられている」と紹介されている。

そもそも蛇は泳げる動物なのであるが、この伝承のため、地元の人の中には芳心院を「ヘビヒメ」と呼称している方も多い。

万両塚の堀溝は、保存整備に伴う発掘調査の結果、当初から空堀であったことが確認されており、もとより蛇を遠ざけるためのものとは考えがたい。
また、万両塚は芳心院の没後に造営されたものではなく、生前に自らが建設した寿塔であることも、誤認されている。

このような「万両塚」の名称や俗説がいつ頃生じたかについては定かではないものの、もとより
鳥取藩の記録には見られず、江戸期においては、永寿院の寺伝として芳心院の逆修塔(寿塔)であることが、明確に伝えられている。
また、少なくとも戦前までの本門寺の記録や縁起書にも一切見ることができない。

しかしながら、この俗説や俗称は、地元である池上に深く根付いたものであることは確かである。池上山上で唯一ともいえる、広大な墓域と巨大な石材を多用するこの特異な墓所の姿が、庶民の目に如何に奇異に映り、かつ鮮烈な印象を与えていたかを、この伝説は我々に示しているのである。

万両塚

万両塚 ヘビヒメ

「万両塚」の伝説蛇姫さま